「劇団ノーミーツ」第2回長編公演「むこうのくに」を見ました。
追加公演が発表されましたが、一応千秋楽が終わった作品ですので、ネタバレがあるかもしれません。これから追加公演を視聴される方はここで引き返して下さい。
私は演劇に関してもド素人なのですが、コロナ禍のかなり初期に「実世界で会わない(no meets)演劇集団」として旗揚げされた「劇団ノーミーツ」の動きをたまたま発見してから、twitterでの短編から、有料の長編(門外不出モラトリアム)まで視聴してきました。
今回、第2回目の長編公演となる「むこうのくに」ですが、まず最初にあげたいのは「コロナ禍」で誕生した「ノーミーツ」作品に共通する(と私が勝手に思っている)シナリオの心地よさでした。
- 胸くそ悪くなるような悪人がいない
- 「あったしれない未来」をリアルに描く
- 登場人物がお互いを尊敬している
という「優しい世界観」が描かれています。
コロナ禍の中の閉塞感を打ち砕く訳でもなく、それらを全て受け入れていくような、非常に後味の良いお話になっています。そして、もしかしたらどこかに存在したかもしれないリアルな未来を描いています。
悪く言えば、尖ってない作品とも言えるのかもしれませんが、私は、絵に描いたような悪人がいて、それを倒す、または倒される話と比べて、こうした優しい世界観のシナリオの方がずっと難しいと思います。
ネット上でも大変好評で「オンラインじゃないとできない作品」として評価している意見がありました。
私は、この点において少し疑問があります。オンラインに特化するなら、ライブ演劇でなくても構いません。こちらは画面で見ているわけですし、ニコニコ動画でコメントを共有しながら視聴できれば、ライブ感は十分に出る気がします。
「コロナ禍で公演の場がなくなってしまったので、仕方なくオンラインでやっている」スタンスが失われたら、私にとっては、劇団ノーミーツの魅力は無くなってしまう気がします。
前作・本作共に、少し情報過多な部分に「疲れ」を覚えました。
話の展開が早すぎるのではなく、余計な情報が多すぎるのです。
私の好きなコントに「ラーメンズ」があります。彼らの舞台は、どのネタもグレー一色の背景と衣装がベースになっています。それ以上のものが出てくれば、それは必ず意味がある。これは物語の基本だと思います。
吉本新喜劇や宝塚の舞台でも、セットは意外にしょぼく見えます。これは、リアルに作り込むより、余計な情報を出さない背景として、演者の個性を殺さないように、敢えてちょうど良いところに抑えているのだと思います。
前作では、脇役の方の個性が強すぎて、多くの「個性」が同時に登場するシーンにはかなり「疲れ」を覚えました。役者さんですから、ある程度個性を主張したい気持ちはめっちゃわかりますし、主催者の方もそれを歓迎されているのでしょうが、私は、見ていて疲れました。
一方、本作では、画面の作りから疲れを感じました。美術・技術スタッフがかなり充実しておられるのだと思いますが、使える技術をギリギリまで詰め込んだ雰囲気に圧迫感を覚えました。全ての色とフォントを使った文字でぎっしり埋まった ポスターを見たような、初めて覚えたアニメーションを詰め込んだパワーポイントを見たような、そんな圧迫感です。ツールが持っている機能を全部使う必要はありません。デザインの世界では「余白」の使い方が大事ですが、技術面でも「余白」をとれば、もっとストレスのない絵になると思います。(それが良いのかどうかはわかりません)
今回は、ネット会議ソフトの「フィルター」が重要な役割を果たしていたので、ノイズとなる余計なフィルターは控えて欲しかったのと、背景も終始バーチャルであるなら、グリーンバックスクリーンを使って頂きたかったなあ、と思います。
技術面では、もっと音に力を注いで欲しかったです。オンラインでは、マイクの性能だけでなく、演者の声量やマイクとの距離により、音量が大きく変化します。劇場だと気にならないのですが、オンライン視聴だと、音割れを起こしたり、小さすぎて聞こえない声が目立ちます。私はPCとそれなりのスピーカで視聴しましたが、スマートフォンでの視聴も視野に入れておられるなら尚更です。(もっとも、最近のスマートフォンのスピーカの性能は、ヘタな格安テレビより良かったりしますが)
とはいえ、中年のおじさんにはやや疲れるところも含めて、良い意味で「若さ」だと思います。自分の若い頃を知っている人がこれを読んだら、「お前が言うな」と言われるでしょうね。そういう意味では、若い頃のエネルギーを思い出し、また演者さんのエネルギーをいただける作品です。また、こうしたプロジェクトを素早く立ち上げて、素早く形にして、そしてこんなに大きく発展させる力は尊敬します。
全てを No Meets で実現しちゃう劇団ノーミーツ「むこうのくに」は、2020年8月1~2日 20時より追加公演があります。チケットはこちらから。