弊社では、サーバ類で使用する以上の電力を太陽光発電で発電しています。これは、弊社が常日頃モットーとする、人と環境に優しいITを…
と書けば格好いいのでしょうが、単純に、野山に帰っていきそうな休耕田を整備しただけです。そもそも全量売電なので、エコ企業を謳うこともできません。発電は晴れたときだけですし、周辺家庭の電力を不安定にしているだけです。それでも安定した電力を供給して下さる日本の電力会社さんには頭が下がります。
ぶっちゃけると、顧問税理士にはひどく反対されました。なぜなら、売電利益ではなく、土地の整備が主目的だったので、きちんと整地して基礎工事を行うと、採算が全く合わないからです。特に法人で行う場合には、法人事業税や資産税、消費税など、個人で行うより税制面でも不利です(本業がしっかりしていれば減価償却の特例の恩恵が受けられます)。ほとんどの野立て太陽光発電は、未整備の土地にパイプを組んで作られていますが、少なくとも初期投資としては、これは、こうしなければ儲けにはならないのです。事実、うちの設計書では広島銀行さんにはコスト過剰だと言われて断られました。
しかも、会社のお金で個人の土地を整備するのは公私混同もいいところで、経営者としても筋が良くありません。なんだかんだで「おもちゃを買うと思ってやるなら良いです」と許可をもらった(?)ので、実行に移しました。結果として、信用のおける電装屋さん、土木屋さんと知り合うことができ、銀行とのパイプもできて、とても良かったと思います。ですが、何度も言います。きちんと作ると、この売電価格ではリスクヘッジもままならないコストがかかります。太陽光発電は、言うほど儲かりません。しかし、それでも弊社はきちんと作りました。それは、弊社は売電投資会社ではなく、システム設計の会社だからです。個人的に、こういうガジェットが大好き、というのもありますが、固定買い取り期間20年間に起こりうる色々なリスク計算を行うと、20年間の最悪ケースでの収支は、たったのプラス3万円でした。それ以上想定外のことがちょっとでも起きれば赤字になります。もう一度言います。リスクをきちんと計算すれば、太陽光発電は儲かりません。政府も実に絶妙な買い取り価格を設定したと思います。ただし、家を新築する際に、電気代の先払いだと思って設置するのは良いと思います。(実はあまり使えないのですが)緊急時に少しでも電力が使えるのは安心です・
もちろん、弊社も、ちょっと儲けに走ろうかとも検討しました。営利企業なので当然です。幾つかの代理店ともお話ししましたが、結局は折り合いがつきませんでした。仕方が無いので、パネル類の購入、設計施工、基礎土木、銀行借入と、それぞれ直接取引を行いました。完全オリジナル設計です。ぶちカッコイイです。ご希望のお客様にはご案内いたします。弊社の考える「システム設計」を目で見ていただける施設になったと思います。ただ、売電収入はそのまま銀行と税金に帰っていきます。きちんと作ると、太陽光発電は儲かりません。
それで、ここからが本題なのですが、去年、大半の電力会社が受け付けを終了するほどの太陽光発電所が全国で建設されました。原発と太陽光発電については私なりの持論があるのですが、それはまたの機会にして(私個人は消極的原発推進派です)、太陽光発電について経営の立場で書いてみたいと思います。
設計を始めたとき、まず既存の発電所を何カ所も見学させていただきました。ただし、この太陽光ブームで作られた施設は1~2年しか経過していないので、オール電化住宅で十何年前から屋根にパネルを載せている家庭からのお話も聞かせていただきました。
太陽光発電に必要なものは、大きく分けて3つ。太陽光発電パネル、変圧変電機(パワーコンディショナー)、基礎架台です。このうち、パネルの方は正直あまり差が無いように感じました。変換効率の違いなどはありますが、効率が悪ければ面積を増やせば良いので、うちの場合(土地を荒らしたくない)はあまり重要ではありませんでした。もちろん、限られた面積にできるだけ敷き詰めたい場合は重要になります。
むしろ大きく異なるのが変圧変電機でした。家庭用なのに、屋内にあって「ブーン」と音を立てているメーカもありました。20年は長いです。特に日差しの強い屋外は環境も過酷なので、屋内に置きたいのも分かります。しかし、日本の狭い家で、この設置基準を満たす壁を作るのは結構大変だと思いました。基準を守ってない施工例も少なからずありました。そんな中で、早くから屋外設置を行っているメーカが分かりました。しかも、もう20年も故障せず動いていると。サンプル数は少ないですが、心強いです。そのメーカはパネルも作っていたので、結局このメーカ品で揃えることにしました。パネルと変電系の連携はとても重要です。
さて、最後が基礎架台なのですが、ここに関しては、ほとんどの方がここのリスク計算をしていないのです。20年は長いです。数十年に1度の水害や台風も想定しなければなりません。
野立ての場合は、なによりもまず立地です。日当たりが良いことは大前提ですが、古い家の建ってない川沿いの土地は、何十年かに一度は水害のあるところだと思って間違いないです。枕崎台風や伊勢湾台風の時を知っている地元の人の話を聞きましょう。とある川の自然防波堤を削ってしまった業者が居ましたが、その内側の河川敷にも別の業者が発電所を作っていましたね。河川敷が20年間水没しないと思ったのでしょうか。不思議です。
次に基礎架台です。ある業者は、スクリュー杭を打ち込んだだけでも十分な強度があると言っていました。確かに、そのような施工実績が多くあるようで、いくつか見学させて貰いました。とある施工例では、1m×1.5m程のパネル12枚を、9本の杭で固定していました。南向きで傾斜は10度。施主さんはかなり満足されていました。これを例に、ちょっと計算してみましょう。
平面板の揚力は、とても簡単に近似すると、
L = 1/2 ρPCLv2S
で簡単に計算ができます。L[N] が発生揚力、風が杭を引き抜こうとする力です。
ρ は空気密度で、よほど高い山でなければ海面での空気密度 1.2 kg/m3 を使いましょう。CLは揚力係数で厳密に求めると大変ですが、迎角10度での実測値の 1.0 ぐらいを採用します。もちろん飛ぶための飛行機の翼とは断面が異なりますが、基本的には同じ振る舞いをします。P は地上効果係数で、高度が低いほど大きくなります。鳥人間コンテストで、着水寸前の飛行機が意外と粘るのは、水面が近くなると P が大きくなり揚力が増すからです。パネル長に対して設置高が10%(この場合、設置高度30cmに相当)の時、P ≒ 1.5 です。v は風速です。広島気象台が平成3年の台風19号で記録した最大瞬間風速 58.9m/s を使いましょう。ただし、この「瞬間」は10分間平均値です。全然瞬間じゃないですよね。実際の「瞬間」風速はもっとあったでしょうが、ともかく今はこの数字を使いましょう。S は面積です。1m×1.5m×12枚としましょう。この簡易計算で、台風19号がもう一度来た時に、このパネル1ユニットが受ける揚力は、約3.6万ニュートン≒3.6トンになります。9本の杭で支えるので、1本あたり410kgです。ただ、9本の杭に均等に力が分散されないので、特定の杭にそれ以上の力が加わることは想定されます。パネル類の重量を考慮しても400kgを超えるの引き抜き力がかかる事は想定すべきです。
もちろん、それは業者さんも想定していて、10cm羽のスクリュー杭を固い地面に刺したときの垂直摩擦抵抗がおおよそ1トンぐらいとのことです。きちんと施工されれば、最大級の台風に対して、2倍程度のマージンがあります。ですが、うちみたいな田んぼの泥では、そうはいかないでしょう。しかも、揚力は9本の杭に均一には掛かってくれませんし、杭の中にも効きの弱い杭が出ます。どこか1本に限界を超える揚力がかかれば、その杭は抜け始めます。一度抜け始めればそこに力が集中し、抜けてしまいます。この夏の台風で少なくないパイプ施工のパネルが飛ばされましたが、こうして計算してみると、飛ぶものが飛んだ、という感じです。少なくともこの例では1ユニットあたり5トン程度のコンクリートで基礎を作っておくべきです。質にもよりますが、コンクリートの乾燥比重は 2.5トン/m3なので、わずか2m3。パネル面積の1m×1.5m×12枚で割れば、厚さは11cm。うちが採用したメーカの純正保証を得るのに必要な基礎の基準が、アンカーポイントで厚さ20cm以上のコンクリートというのも納得できます。さらに倍、って感じですね。
いろいろ拝見していて、同じように無謀に思えたのが、伝統的日本家屋の屋根への設置です。日本家屋の瓦は、地震の際に動くようになっています。地震で古い家の瓦が落ちているのをヘリからの中継で見る事がありますが、日本の伝統家屋は地震の際に瓦を犠牲にして家屋への負担を軽減するのです。中国の瓦は1枚ずつ釘で屋根に固定します。日本家屋の屋根はそもそも上に何かを固定するものではないのです。エアコンの室外機を瓦の上に設置している家もありますが、良くないです。その上、家の骨組みも、重い屋根を支える強度はありますが、上に引っ張られるのにはあまり強くありません。瓦とパネルの間に空いた隙間から発生する揚力で、パネルだけ飛べばまだ良いですが、屋根ごと持って行かれるかも知れません。屋根に設置するときは、家の設計からそれを想定して作るべきです。新築のそうしたお宅も拝見しました。とても綺麗な施工でした。
ここまで、私は土木屋さんではないので、ここであげたのはとても簡易な計算です。揚力の計算はきちんとやるともっともっと複雑ですが、安い買い物ではないので、このぐらいの簡単な計算をしてから買った方が良いと思います。その他色々な工夫をして、当初は他の案件と比べてコストが高すぎると言っていた銀行ですが、もみじ銀行さんはここを考慮してくださり、むしろ低金利での融資をして下さいました。銀行の貸出金利はリスクの正直な値なので、初期投資の増加分以上に、長期的なリスクを下げられたと判断して良いと思います。ただ、きっちり作っても売電価格や売電量が増えるわけではないので、リターンを得るにはある程度リスクを取って攻めなければなりません。
※パネルや家屋の施工には色々な例があるので、ここで挙げたものが全てではありません。