「昨日のカレー、作りすぎたので、よかったらどうですか?」

これは、田舎暮らしや、上京したての一人暮らしのアパート(ただし漫画に限る)でよくみられる光景ですね。しかし、これがもっとシステマティックになって、カレーを作りすぎた人とカレーを食べたい人を効率的かつ安全にマッチングできるようになるとどうなるでしょう。(ここでは単純化のため、保健所などの規制は考えないものとします。)

カレーを作りすぎるコストはとても低いです。一方で、カレーを外食するときの販売価格は、そこそこ高いです。もちろん、カレー屋が高すぎるというのではなく、きちんと市販しようと思うとそれなりのコストがかかるのです。

よくカレーを作りすぎてしまうAさんは、カレーを作りすぎた人と、カレーを食べたい人とのマッチングアプリを作りました。家の鍋で一人分を作るのも5人分を作るのもほとんど同じ。ならば、最初から5人分作ってお裾分けしたら良いと思ったのです。カレーを食べるほうも、お裾分け価格で色々なカレーを楽しめるのは、とてもお得です。このアプリはとても流行りました。1年後、その地域の老舗のカレー店は、ひっそりとのれんを下ろしました。

今、巷で起きている第4次産業革命は、こういう事ではないかと思います。

車の相乗り送迎や民泊のマッチングサービスは面白いものですが、いずれも、従来の民宿やタクシーといった専業の方がいらした業種です。それを、素人の提供者と利用者とが、リスクとコストを自腹で抱えることで、その分、安価にしたサービスとも言えると思います。プロが生業として長期的に営業するには、様々なリスクや安全管理コストなども経費として織り込みますので、トータルのサービスコストはどうしても、素人が暇つぶしに提供するものよりは高くなります。一方、それらを束ねる「マッチング会社」は、ここのトラブルのリスクを、当人同士(や保険会社)にリスク分散することが出来ます。当事者が廃業に追い込まれても、顧客の一人が酷い被害を被っても、替わりはいくらでも居ます。そもそも、安価なサービスにフルサービスを要求するなと言う事もできます。

利用者も支払金額こそ少なくてすみますが、電話一本で済むところを、自分で探して手配するコストを払っています。自分はスマホも使えるし、そんなの苦にならない、という方が多いでしょうが、そういう専門技能を無償提供しているのです。他方、提供者も、本来貰えるはずの報酬の一部や、年金などの福利厚生費、リスクを織り込んだ積立などが含まれていない価格で受注しています。その時だけなら良いかも知れませんが、生業でやっていくには、長期的視野に欠けるモデルです。日雇いが基本で貯蓄率の低い国のシステムとも言えるかもしれません。

このような新しいサービスは、こうした「技能やリスクを無料で拠出させる」ことで成り立っているように思います。タダでさえ、日本は、リスクや専門技能に対価を払うことを嫌う風潮があるので、(皮肉にも日本の価値観に合っているのかもしれませんが)、いずれ専門技術全体が、安く叩かれるようにならないか心配です。そうなれば既存の専門職は、技術に見合う対価が得られなくなるので、自由化に反対することは至極当然のように思います。

これまでも、テクノロジーの進歩は、常に専門職を駆逐してきました。電話の自動交換機は電話交換手の仕事を駆逐しましたし、 ガソリンがセルフ給油できるようになりました。 スーパーマーケットのレジも無人になっていきます。

こうした効率的な機械化に伴う省力化とは異なり、第4次産業革命は、リスクと専門技能を、大勢で分散して安売りすることで成り立っているように思います。
これまでのコストカットが、ブラック企業による徹底した人件費削減だとするならば、これらは、人件費を利用者に全て押しつける「トウメイ」ビジネスモデルと言えるのではないかと思います。 利用者もハズレを引けば損をしますし、提供側も、暇だからとうっかり「ひさし」を安価に貸すと、やがて専門技能の価値が社会的に下がり、母屋の価値までなくなることになりかねません。

しかし、この流れを規制で妨げても、世界はどんどん動いていきます。技術に対する収入がきちんと確保できるような制度が必要なのかもしれませんが、今のところ、それを一番上手くコントロールできるのは「公正な市場原理」のような気がします。下手に○○法人に丸投げされた資格認定制度より、「トウメイ企業」による評価制度と市場による淘汰の方がうまく回りそうな気がします。


Waifu2x

Up系のモデルはノイズ低減と拡大がセットで学習されている。
ResNet10 が高性能らしい。→ UpResNet10 が出たが好みが割れている?

waifu2x-chainer + UpResNet10 (どうしても線が太くなる) + Lanczosで縮小すれば線が痩せる

TTA – test-time augmentation

回転や反転 8パターンの平均を取ることで構造的ノイズを低減させる。時間は8倍かかる。
https://github.com/nagadomi/waifu2x/issues/148#issuecomment-255754265


花房孟胤「予備校なんてぶっ潰そうぜ」

自分のサービス(仕事)で社会を変えてやる。そう本気で思って行動したことがありますか?

これは、コミュニティ型電子予備校のさきがけであった「manavee」の立ち上げと成長に纏わる、学生起業の顛末を生々しく本人が語った本でした。manavee は、継続不能が宣言された今でも、日本の教育格差を根本から変えうる素晴らしいサービスアイデアだと思います。また、この本を読んでも、その立ち上げや運営に相当な落ち度があったとは思えません。ただただ、こうした思想型ベンチャーと「収益化」の難しさ、「収益化のプロと一緒に立ち上げる難しさ」を感じました。

学生だから考えが甘かった、とも言えるかもしれませんが、アイデアを思いついて実装していく段階では、企業であっても似たようなものだと思います。むしろ、経営体力のある大手企業の方が、最初の採算性など考えずに始められるのではないでしょうか。資金力も無い中で突き進んだ彼の行動力は一流です。そして、教育格差を解消するという大義名分も非常に素晴らしいものです。学生のうちは2~3年費やしてもまだまだ若いので、こういう事を思いついて、行動力があるなら、生まれ変わってもまたやるべきだと思います。

講義をする先生もボランティア、視聴する生徒も無料で視聴できる、ある意味理想の経営ですが、収益化する道筋が見えません。これは、私もビジネスコンペでよく言われることなので、自分のことのように思えました。しかし、大きな理念があるなら、しばらくはそれで突き進めますし、ついてきてくれる人もいます。しかし、規模が大きくなって固定費が大きくなり、参加者のモチベーションもそれぞれとなってくると、これは、ビジネスとして企業体にまとめる段階がやってきます。ここで大事になってくるのが収益化です。収益が上がるから色々な人をまとめることができ、継続可能なビジネスとなります。色んな困難にうまく対処しつつも、こうした変化に対し消極的でありすぎたのかもしれません。

視聴者・ボランティア講師・コアスタッフ・その他関係する方々を、もっとうまく「巻き込む」こと、方々の意見をもっともっと取り込むことの重要性を改めて認識させられました。私も、今までのプロジェクトの中で、うまく力を生かし切れなかった、うまく巻き込めなかった「協力的な人たち」が沢山いましたし、こと、お金に関しては決断できなかったこともありましたので、このあたりは非常に共感できるものがありました。成功している人は、このフェーズで早々と資金を調達し(或いは親が出資したり)ているように思えます。しかし、彼のようなスモールスタートは、決して悪手ではないはずです。

うまくやれば、うまくいったかもしれません。しかし、これを進めれば、やがては既存の予備校グループに組み入れられてしまう結果に終わったように思います。視聴者からも最小限の費用は取ろう、最小限と言っても少しは利益を上げないと継続できない、そうしているうちに、潰そうと思っていた予備校そのものになってしまう未来だった様にも思います。教育格差をなくすのか、教育格差を少し縮めるのか、これは大きな選択です。よく考えてみれば、格差をなくすことはできないので、「どの程度縮められるか」という落としどころを探るしかないのですが、「教育格差をなくす」にこだわり「予備校をぶっ潰そうぜ」と突き進んだのは潔くもあります。

また、支えてくれる女性の存在が、いかに大事なものかも教えてくれます。彼女は、彼を、というよりもmanaveeを好きだったのだと思いますが、彼にとっては大きな存在だったのだと思います。無条件で支えてくれる人が一人いれば、人間は結構がんばれるものです。ただ、先頭を行く人間とは孤独なもので、もっと色んな人の力をうまく借りる努力を、最初のうちからもっと組み込まないといけませんでした。

文体も読みやすく、一気に読める分量です。運営者と共感者の人間関係を中心に、組織の成長と成熟が生き生きと(生々しく?)書かれている良本です。


閲覧者にマイニングさせたからといって、それだけでは悪質だとは言えないのではないか」と言いましたが、確かに、これを放置したのでは、そのうち悪質なものが出てくることは目に見えています。

広告でも、あたかもシステムがウイルスに感染しているかのような警告文を表示させ、対策ソフトと称して不正なプログラムをダウンロードさせる広告が溢れています。閲覧者マイニングモデルも、同様の危険性を備えています。

一番ホットな話題で言うと、「漫画村」をはじめとする不法配信サイトのほか、いわゆる「ステルスマーケティング」や、デマを拡散する悪質なまとめサイトなどに対し、最近、広告主を動かすことによって広告収入を激減させる攻撃、いわゆる「広告剥がし」が行われています。良質な広告主が無ければ収益は大きく下がりますので、スポンサーリテラシが急速に求められ始めてた近年では、一定の効果のある対策です。ただし、この「広告剥がし」も、広告の流通が数社に事実上独占されている状態では、インターネットでの情報発信の可能性を限られた会社の判断で潰してしまえるという事でもあるので、それはそれで別の危険をはらんでいます。

今回の「閲覧者マイニングモデル」は、利用者が長時間滞在する「漫画村」のようなサイトの新しい収益減としてマッチしてしまいます。もちろん、これも、マイニングが悪いのではなく、海賊版を不法公開しているのが悪いのですが、なかなかに難しい問題です。

また、合法的なマイニングにしても、どの程度までリソースの使用を許すか、という線引きが必要です。スマホのCPUを目一杯使われると、当然バッテリーをものすごい勢いで消費しますし、放熱の悪いモデルでは、過熱によりカメラなど一部の機能がしばらく使えなくなります。これはさすがに迷惑ですよね。広告も同じぐらい迷惑だという人も居ますが、広告モデルはその歴史の長さもあり、あまりに常識を逸脱した広告はごく一部です。このページも、Google広告のテストの一環でちょっと多めの広告が入っていまして(どの程度広告を表示させるかはGoogleのさじ加減ですが)、申し訳ないことに、読み込み時に余分な通信とCPUを食いますが、読み込んでしまってからはCPUはほとんど動きません。(Google広告には、悪質な広告が少ないので)

もちろん、どうしても気に入らない場合は、そのサイトに行かなければ良いのですが、マイニング利用が明示されてなければ、どのサイトに行かなければ良いのかも分かりません。その意味でも、「利用者マイニングは全てが違法ではないが、適正な範囲内で行い、その事を明示する必要がある」あたりで線引きしなければならない気がします。この「適正な範囲内」というのが曖昧なままですが、これがはっきりするのは、この技術が一般化して「この辺が落としどころだよね」という世間との暗黙の合意が形成される時です。つまり、今の時点で「明らかにやり過ぎ」た場合を除けば、グレーゾーンのどこに基準ができるかはまだわからないのです。

最近は、EUを中心に、広告の最適化に対しても、ユーザの合意を得るように法令が変わっています。「事前の合意」と「選択肢の提示」は、これからの開発者に求められるのかな、と思います。しかし、ここで注意して欲しいのは、EUの動きは、(主に米国の)大企業による情報のコントロールから(欧州の)個人を守るためであって、国家の権力を国民に行使するためではありません。EUのプライバシー法では、一回目は必ず警告を行い、それでも改善しない場合に罰則を科すという規定になっており、摘発よりも予防を促していることが覗えます。今回の騒動とは「国家と法律の役割」の向きが完全に違います。

また、一般にブログを書いて広告を載せているようなサイト全てが、「広告最適化のためにクッキーを利用して良いですか? 広告を表示せず、マイニングの資源を提供してくれますか? それとも少額の寄付をお願いできますか?」と尋ねる仕組みを導入するのは大変ですし、初めて行くサイトでイチイチ同じ質問をされるのも、迷惑広告と同じぐらい迷惑ですよね。もっと包括的で効率的な解決技術が必要となってきているように思います。

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神奈川や福岡で、不正マイニングを行ったとして16名が検挙されました。最初に主張したいことは、「マイニング」も「暗号通貨(仮想通貨)」も違法行為ではなく、また、今回の件では、ウイルスなどの違法な技術は使われていません。まして、閲覧者の保有する暗号通貨を奪ったわけでもありません。

ここで「マイニング」という言葉が出てきます。マイニングとは、暗号通貨の用語です。暗号通貨では、中央管理センターを置かずに、利用者が少しずつ運営に必要なデータの中継や整理を手伝う仕組みになっています。その貢献に応じて、少額の報酬が暗号通貨で支払われます。この「リソースを提供して暗号通貨を受け取ること」をマイニング(採掘)と呼びます。もちろん、これ自体に違法性はありませんし、莫大な報酬があるわけではありません。日本では一般的に、マイニングで受け取れる報酬より、マイニングにかかる電気代の方がかなり高くなります。電気代の安い中国などでは、専用のコンピュータを体育館のような工場に大量に列べて、「塵も積もれば山となる」作戦を行っているマイニング工場もあります。大きな利益を得るには、こうした大規模な設備が必要です。

今回問題となっているのは、Webサイトに、このマイニングプログラムを潜ませて、閲覧者のパソコン・スマホに、このマイニングを手伝わせた事が、違法だと言われています。一部では「ウイルス」と絡めている人も居ますが、ウイルスのような感染能力は無く、広告を読み込ませるような要領で、マイニングプログラムを読み込ませていました。

これが違法かどうかは、今後の裁判次第ですが、私個人は、これに関しては、悪質性は低く、違法性についても微妙だと思います。

まず、「閲覧者の同意なく、意図しないプログラムを動かした」事が全部悪であれば、アニメーション広告なども悪いという事になります。実際、一部のアニメーション広告の方が、このマイニングよりもユーザのリソース(計算量や通信量)を食い潰します。ただし、「閲覧者のリソースを用いて広告を表示すること」は、以前からテレビやラジオでも行われています。テレビでも広告を視聴しているときの電気代は視聴者負担ですよね。ですから、これの延長で考えれば、「コンテンツの合間に広告を表示すること」は、ある程度は社会の中で暗黙に合意が成されていると考えられます。

一方、今回の「マイニング」は新しい技術ですので、まだそうした暗黙の合意はありません。ここが「違法性」に繋がる根拠とされています。もちろん、予めの合意がなくても、サイトのポリシーなどで説明すべきだったと思います。ただ、このマイニングで得られる報酬は極めて僅かなものです。専用のコンピュータが何千何万も並んでいるマイニング工場に比べて、パソコンやスマホの計算能力はたかがしれています。実際にどの程度の報酬を得ていたのかわかりませんが、よほど多くの閲覧者が長時間閲覧するサイトでなければ、現実的な金額にはなりません。これは通常の広告で得られる収入を下回るもので、稼ぎたかったのであれば素直に広告を掲載すれば良かったのです。むしろ、技術的実験の性質が強かったと思われ、これが、悪質性が低いと思う理由です。もちろん、これは程度問題で、マイニングソフトをインストールさせて常時フルパワーでマイニングさせるようなことであったなら、かなり悪質だと思います。今、公開されている情報によると、今回はそういう悪質なものではなかったようです(注:追記1)。

 

そもそも、Webサイトの運営や、色々なアプリ・サービスを提供するには、多くの経費がかかっています。ですが、多くのWebサイトやアプリが実質無料で提供されていますよね。その裏には、広告収入で管理運営費を賄っているものが多くあります。テレビの民放無料放送も広告頼みです。広告は、多くの場合、ユーザの利便性の妨げになっていますが、ユーザが許容範囲だと思う範囲で広告を流します。広告業者は、効率よく広告を配信するために、閲覧者の好みを把握しようと色々な仕掛けをしています。最近探した商品の広告が出ていたりしませんか? EUでは、この広告最適化のほうをプライバシーの観点から問題視しています。

広告を使わず、サイトの運営費を賄うことができれば、運営者も閲覧者もより幸せになれるかもしれません。そうした技術的試みの最先端が「閲覧者によるマイニングサポート」なのです。この技術は、先ほども述べたように、うまく調整すれば、一部の動画広告よりも閲覧者の負担は少ない場合もあります。とりわけ、スマホの場合は動画広告の使う通信料金(パケット料金・「ギガ」)はかなり多くなります。また、スマホにプリインストールされているアプリの中には、スマホのリソースを勝手に使うものもありますが、ずっと違法性は指摘されていません。旧来からあるものだから暗黙の合意があるとされ、新しい技術は、よくわからないから合意がない、即ち違法、という法の拡大解釈は極めて乱暴です。

まして「違法行為の疑い」だけでサーバ類を押収されるのであれば、弊社のような小規模企業は潰れてしまいますし、新しい試みができなくなります。大企業がやってる事は正しいけど、よく分からない人がやってるよく分からないものは悪いもの、今回検挙された人たちも、よく分からないけど悪いことをしたに違いない、そんな国にはなって欲しくありません。ただし、問題がないわけではないので、線引きは必要になると思います。

追記1

詳細が公開されると、やややり過ぎと思える例もあるようです。

追記2

マイニングスクリプト(プログラム)を自作した人が、ウイルス作成罪に問われていますが、マイニングプログラム自体はウイルスのような悪い物ではありません。

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