弊社では、サーバ類で使用する以上の電力を太陽光発電で発電しています。これは、弊社が常日頃モットーとする、人と環境に優しいITを…
と書けば格好いいのでしょうが、単純に、野山に帰っていきそうな休耕田を整備しただけです。そもそも全量売電なので、エコ企業を謳うこともできません。発電は晴れたときだけですし、周辺家庭の電力を不安定にしているだけです。それでも安定した電力を供給して下さる日本の電力会社さんには頭が下がります。

ぶっちゃけると、顧問税理士にはひどく反対されました。なぜなら、売電利益ではなく、土地の整備が主目的だったので、きちんと整地して基礎工事を行うと、採算が全く合わないからです。特に法人で行う場合には、法人事業税や資産税、消費税など、個人で行うより税制面でも不利です(本業がしっかりしていれば減価償却の特例の恩恵が受けられます)。ほとんどの野立て太陽光発電は、未整備の土地にパイプを組んで作られていますが、少なくとも初期投資としては、これは、こうしなければ儲けにはならないのです。事実、うちの設計書では広島銀行さんにはコスト過剰だと言われて断られました。

しかも、会社のお金で個人の土地を整備するのは公私混同もいいところで、経営者としても筋が良くありません。なんだかんだで「おもちゃを買うと思ってやるなら良いです」と許可をもらった(?)ので、実行に移しました。結果として、信用のおける電装屋さん、土木屋さんと知り合うことができ、銀行とのパイプもできて、とても良かったと思います。ですが、何度も言います。きちんと作ると、この売電価格ではリスクヘッジもままならないコストがかかります。太陽光発電は、言うほど儲かりません。しかし、それでも弊社はきちんと作りました。それは、弊社は売電投資会社ではなく、システム設計の会社だからです。個人的に、こういうガジェットが大好き、というのもありますが、固定買い取り期間20年間に起こりうる色々なリスク計算を行うと、20年間の最悪ケースでの収支は、たったのプラス3万円でした。それ以上想定外のことがちょっとでも起きれば赤字になります。もう一度言います。リスクをきちんと計算すれば、太陽光発電は儲かりません。政府も実に絶妙な買い取り価格を設定したと思います。ただし、家を新築する際に、電気代の先払いだと思って設置するのは良いと思います。(実はあまり使えないのですが)緊急時に少しでも電力が使えるのは安心です・

もちろん、弊社も、ちょっと儲けに走ろうかとも検討しました。営利企業なので当然です。幾つかの代理店ともお話ししましたが、結局は折り合いがつきませんでした。仕方が無いので、パネル類の購入、設計施工、基礎土木、銀行借入と、それぞれ直接取引を行いました。完全オリジナル設計です。ぶちカッコイイです。ご希望のお客様にはご案内いたします。弊社の考える「システム設計」を目で見ていただける施設になったと思います。ただ、売電収入はそのまま銀行と税金に帰っていきます。きちんと作ると、太陽光発電は儲かりません。

 

それで、ここからが本題なのですが、去年、大半の電力会社が受け付けを終了するほどの太陽光発電所が全国で建設されました。原発と太陽光発電については私なりの持論があるのですが、それはまたの機会にして(私個人は消極的原発推進派です)、太陽光発電について経営の立場で書いてみたいと思います。

設計を始めたとき、まず既存の発電所を何カ所も見学させていただきました。ただし、この太陽光ブームで作られた施設は1~2年しか経過していないので、オール電化住宅で十何年前から屋根にパネルを載せている家庭からのお話も聞かせていただきました。

太陽光発電に必要なものは、大きく分けて3つ。太陽光発電パネル、変圧変電機(パワーコンディショナー)、基礎架台です。このうち、パネルの方は正直あまり差が無いように感じました。変換効率の違いなどはありますが、効率が悪ければ面積を増やせば良いので、うちの場合(土地を荒らしたくない)はあまり重要ではありませんでした。もちろん、限られた面積にできるだけ敷き詰めたい場合は重要になります。
むしろ大きく異なるのが変圧変電機でした。家庭用なのに、屋内にあって「ブーン」と音を立てているメーカもありました。20年は長いです。特に日差しの強い屋外は環境も過酷なので、屋内に置きたいのも分かります。しかし、日本の狭い家で、この設置基準を満たす壁を作るのは結構大変だと思いました。基準を守ってない施工例も少なからずありました。そんな中で、早くから屋外設置を行っているメーカが分かりました。しかも、もう20年も故障せず動いていると。サンプル数は少ないですが、心強いです。そのメーカはパネルも作っていたので、結局このメーカ品で揃えることにしました。パネルと変電系の連携はとても重要です。

さて、最後が基礎架台なのですが、ここに関しては、ほとんどの方がここのリスク計算をしていないのです。20年は長いです。数十年に1度の水害や台風も想定しなければなりません。

野立ての場合は、なによりもまず立地です。日当たりが良いことは大前提ですが、古い家の建ってない川沿いの土地は、何十年かに一度は水害のあるところだと思って間違いないです。枕崎台風や伊勢湾台風の時を知っている地元の人の話を聞きましょう。とある川の自然防波堤を削ってしまった業者が居ましたが、その内側の河川敷にも別の業者が発電所を作っていましたね。河川敷が20年間水没しないと思ったのでしょうか。不思議です。

次に基礎架台です。ある業者は、スクリュー杭を打ち込んだだけでも十分な強度があると言っていました。確かに、そのような施工実績が多くあるようで、いくつか見学させて貰いました。とある施工例では、1m×1.5m程のパネル12枚を、9本の杭で固定していました。南向きで傾斜は10度。施主さんはかなり満足されていました。これを例に、ちょっと計算してみましょう。

平面板の揚力は、とても簡単に近似すると、

L = 1/2 ρPCLv2S

で簡単に計算ができます。L[N] が発生揚力、風が杭を引き抜こうとする力です。
ρ は空気密度で、よほど高い山でなければ海面での空気密度 1.2 kg/m3 を使いましょう。CLは揚力係数で厳密に求めると大変ですが、迎角10度での実測値の 1.0 ぐらいを採用します。もちろん飛ぶための飛行機の翼とは断面が異なりますが、基本的には同じ振る舞いをします。P は地上効果係数で、高度が低いほど大きくなります。鳥人間コンテストで、着水寸前の飛行機が意外と粘るのは、水面が近くなると P が大きくなり揚力が増すからです。パネル長に対して設置高が10%(この場合、設置高度30cmに相当)の時、P ≒ 1.5 です。v は風速です。広島気象台が平成3年の台風19号で記録した最大瞬間風速 58.9m/s を使いましょう。ただし、この「瞬間」は10分間平均値です。全然瞬間じゃないですよね。実際の「瞬間」風速はもっとあったでしょうが、ともかく今はこの数字を使いましょう。S は面積です。1m×1.5m×12枚としましょう。この簡易計算で、台風19号がもう一度来た時に、このパネル1ユニットが受ける揚力は、約3.6万ニュートン≒3.6トンになります。9本の杭で支えるので、1本あたり410kgです。ただ、9本の杭に均等に力が分散されないので、特定の杭にそれ以上の力が加わることは想定されます。パネル類の重量を考慮しても400kgを超えるの引き抜き力がかかる事は想定すべきです。

もちろん、それは業者さんも想定していて、10cm羽のスクリュー杭を固い地面に刺したときの垂直摩擦抵抗がおおよそ1トンぐらいとのことです。きちんと施工されれば、最大級の台風に対して、2倍程度のマージンがあります。ですが、うちみたいな田んぼの泥では、そうはいかないでしょう。しかも、揚力は9本の杭に均一には掛かってくれませんし、杭の中にも効きの弱い杭が出ます。どこか1本に限界を超える揚力がかかれば、その杭は抜け始めます。一度抜け始めればそこに力が集中し、抜けてしまいます。この夏の台風で少なくないパイプ施工のパネルが飛ばされましたが、こうして計算してみると、飛ぶものが飛んだ、という感じです。少なくともこの例では1ユニットあたり5トン程度のコンクリートで基礎を作っておくべきです。質にもよりますが、コンクリートの乾燥比重は 2.5トン/m3なので、わずか2m3。パネル面積の1m×1.5m×12枚で割れば、厚さは11cm。うちが採用したメーカの純正保証を得るのに必要な基礎の基準が、アンカーポイントで厚さ20cm以上のコンクリートというのも納得できます。さらに倍、って感じですね。

いろいろ拝見していて、同じように無謀に思えたのが、伝統的日本家屋の屋根への設置です。日本家屋の瓦は、地震の際に動くようになっています。地震で古い家の瓦が落ちているのをヘリからの中継で見る事がありますが、日本の伝統家屋は地震の際に瓦を犠牲にして家屋への負担を軽減するのです。中国の瓦は1枚ずつ釘で屋根に固定します。日本家屋の屋根はそもそも上に何かを固定するものではないのです。エアコンの室外機を瓦の上に設置している家もありますが、良くないです。その上、家の骨組みも、重い屋根を支える強度はありますが、上に引っ張られるのにはあまり強くありません。瓦とパネルの間に空いた隙間から発生する揚力で、パネルだけ飛べばまだ良いですが、屋根ごと持って行かれるかも知れません。屋根に設置するときは、家の設計からそれを想定して作るべきです。新築のそうしたお宅も拝見しました。とても綺麗な施工でした。

ここまで、私は土木屋さんではないので、ここであげたのはとても簡易な計算です。揚力の計算はきちんとやるともっともっと複雑ですが、安い買い物ではないので、このぐらいの簡単な計算をしてから買った方が良いと思います。その他色々な工夫をして、当初は他の案件と比べてコストが高すぎると言っていた銀行ですが、もみじ銀行さんはここを考慮してくださり、むしろ低金利での融資をして下さいました。銀行の貸出金利はリスクの正直な値なので、初期投資の増加分以上に、長期的なリスクを下げられたと判断して良いと思います。ただ、きっちり作っても売電価格や売電量が増えるわけではないので、リターンを得るにはある程度リスクを取って攻めなければなりません。

※パネルや家屋の施工には色々な例があるので、ここで挙げたものが全てではありません。


昨日8月31日をもって、栄諧情報システム株式会社 第4期会計年度が無事終わりました。
そして今日から、第5期がはじまります。

どうなることかと思った帰郷と企業でしたが、本当に皆さんのおかげでここまで来る事ができました。
今年は、いきなり大きな勝負が迫っていますので、これが吉と出るか凶と出るか…。そんなことは分からないので、やるのみです。

今後もよろしくお願い致します。

 


ちょっと間が空いてしまいましたが、9月15日の「Web Touch Meeting #71」と、11月26日の「広島の楽しい100人」というイベントで、私のお話をさせて頂きました。

「Web Touch Meeting」は、もう70回を超える長寿イベントで、Web やその界隈の現場の人たちで情報を共有しようという勉強会です。一方、「広島の楽しい100人」はまだ2回目なのですが、毎回、楽しいことをやっておられる4人の方のお話を聞くという会で、今回もとても豪華なメンバーのなかに(なぜか)私という組み合わせでした。亀仙人のついでに聞いて下さった方も多いと思います。ありがとうございました。そもそも私なんか、何かをなしえたわけでもないのに、話なんか聞いてみんな楽しいのかという疑問だらけだったのですが、それはこの際棚に上げて、お話しさせてもらいました。

そもそもの発端は、WTM で40分の話をさせてもらったことがきっかけで、楽しい100人のお話を頂きました。WTM の時は、研究者を目指していた時代についてのスライドは数枚だけだったのですが、主催者の意向も受け、100人では聴衆置いてけぼりのリスクをとりつつも、がっつり入れました。もちろん、本来それぞれ3時間ぐらいかけて説明できると面白いのですが、それはまた別の機会に。何かそういうイベントがあったら物理も喋りますので呼んでください! いや、その時は本物の物理学者を呼んだ方が面白いか…。

楽しい100人では、一人の聴衆として、非常に心を動かされたお話がありました。1番目に登壇された、ゴトウイズミさんのお話の中で「ダメだと思ったらすぐに方向転換してみる」という「楽しみ方」の秘訣です。大筋では信念を曲げないことが大事ですが、大きな目的のためには小さな凹凸は避けて通る事も大事。転進は負けじゃないんです。(ゴトウさんはそういう意味でお話しされたのでは無いかもしれませんが、私はそう解釈しました。)

 

後で幾つか質問を受けましたので、幾つかお答えしたいと思います。

  • ユーザの集め方を教えて

WTM で触れましたが、需要側・供給側の両方に喜ばれるサービスは、潜在的に伸びると思います。時代と需要を捉えていることと、最小限のデザインは必要です。もっとデザインや使いやすさを追求していたら、価格広場はもう少しシェアを広げていたと思います。

  • 今、注目している Web 技術は何?

なかなか難しい質問です。私はいわゆる「Web屋さん」ではないので、あまり技術的なところは強くないのです。IaaS などの抽象化技術は、アイデアをストレートにモノにする技術だな、と感じます。サーバを管理するのは、管理が好きな人だけやれば良い時代なのかなと思います。
あとは、3Dプリンタや特注基板など、ハードウエアの小ロット生産もハードルが低くなっていると感じます。ハード・ソフト一体のソリュージョンも増えてくると楽しそうですね。

  • 在宅スタッフを採用している職種は?

ほとんど全てです。プログラミング・デザイン・データマネージャ・データ入力まで、多くの部分を社内外の在宅スタッフに任せています。さすがに物理サーバの管理は私がやっています。素晴らしい技術をお持ちなのに、色々な事情からフルタイムで働けないという方は多いので、そういう能力を集結できる場であればと思っています。ですが、反面、1ヶ月に投入できるリソースの予測が難しく、直に収益に繋がる仕事がとりにくいので、経営はとても厳しいです。在宅ワーカの皆さんにとっても、ノルマ等がない分、他の内職よりは多少マシってだけですが、それぞれやりがいを感じて取り組んでくれているので、大変助けられています。

  • 選択に迷ったときどうする?

研究者をやっている先輩に「悩んでも良いが、迷ってはダメ」と言われました。その通りだと思います。やるならやって、ダメならやめる。それだけです。迷っている時間があったら少しでもやってみて、情報を集めてから悩めば良いと思います。最後は「ここまで悩んだんだから(反省することになっても)後悔しない」という決断です。

  • 「楽しい」で食べて行くにはどうしたらいい?

現実的に答えると、チームを組むことだと思います。私は経理やデータ管理は大嫌いですが、それが楽しいと思う人も居るので、そういう人と長期間チームを組める体制を整えると良いと思います。特に、事業としての体制を整えるなら、お金周りは税理士や会計士に任せた方が良いです。チームの「楽しい」を引き出して、みんなが楽しめる環境が出来るといいですね。成功している小さな企業にはこういう感じのところが多いと感じます。規模が大きくなると難しいと思います。

  • 好きではない仕事をしている人にメッセージを

今回は「楽しい100人」というテーマでのお話だったので、楽しそうな話をしましたけど、細かく見ると、楽しくない仕事もやってますよ! むしろ、それも含めて全体として「楽しい」と思えるかどうかだと思います。家族のために働いているという人も、言い換えれば、その人の「楽しい」は家族との時間だったりしませんか? それと、「気は持ちよう」と言いますけど、苦労して当たり前、その向こうにある「楽しい」に目を向けて仕事が出来るかどうかだと思います。特に100人の皆さんはそうでしたよね。私は、、、まだ、しんどいと思ってしまうので、修行が足りません…。

 

時間の関係で泣く泣く削ったエピソードを一つ紹介したいと思います。

研究者時代、とある大学の募集に応募したときのことです。その大学では、まさに数年越しで建設を進めてきた大型実験装置が稼働するということで、そこで研究するスタッフを募集していました。私みたいな下っ端は、こういういろんな公募に片っ端から応募するわけですけど、この大学の先生に「このポストに応募するんだから、研究内容はその装置を使って出来ることを提案した方が受かりやすいですかね?」というような事を訊きました(我ながら小者感あふれる質問です)。その先生は一蹴して「君は自分の研究が一番面白いと思っているんだろ? だったら、『お前達の計画している実験より俺の研究の方が面白い。その研究をお前の大学でやってやるから俺を雇え』と説得できなきゃダメだろ」とおっしゃいました。全くその通りだと思いました。私はそれで研究計画を出しました。
とはいうものの、実際、それでは書類審査も通らないだろうと思い、欧州の研究所に長期出張をいれたのですが、滞在中にその大学から、「2次面接に来い」との連絡を頂きました。今欧州で、役割もあってすぐには向かえないと相談すると、「じゃあいつなら来られるんだ?」とのこと。会計年度末の差し迫った頃に日程を組んで頂き、面接試験を受けさせて頂きました。研究計画を発表後、おそるおそる「ちなみに、結果はいつ分かるのでしょうか…?」と伺うと、面接官の一人が「バカ! 忙しい我々が、君のために何度も集まれる訳がないだろ。今から決めるんだよ!!」と冗談交じりに言われました。

やはり(なかなかに難しいですが)、自分(自分のやっていること)に良い意味で自信を持つことが必要なのだと思います。幸運にも、私はこれまで多くのチャンスを頂きました。そして、それを掴んで、努力もしたつもりです。力及ばず物理の研究者として生き残れませんでしたが、最後までブレずに挑戦させてもらえました。また、学閥や国籍を超えてきちんと(むしろ過大な)評価して頂いた上での敗北なので、失敗も沢山ありましたが、後悔は残りませんでした。

また、このように、これまで、人生の節目節目で良い人に巡り会えたと思います。他の子と違う事は良い事でもあると教えてくれた保育所の所長先生、挑戦を教えてくれた小4の時の担任の先生、情報センターで思うまま遊ばせてくださった教授、大学で長くお世話になることになる研究室に誘ってくださった教授、そして、一番つらい時を支えてくれた人と家族。また、こうやって別の道を歩み始めた会社を支えてくれたスタッフさん達、勉強会でお世話になった皆さん、多くの方々に感謝しています。我ながら甘い人生観なのですが、これからの人生でも、大きな困難にぶつかったときは、また誰かに助けてもらって乗りきっていけるんじゃないかと思っていたりします。私は強い人間ではないですし、これまでも一人だけで切り開いた人生じゃありませんから、助けを求めます。これを読んでくださった方の助けを借りることもあると思いますので、その時はよろしくお願いします。


録画していたハーバードのリーダーシップ論(6時間)を見た。印象に残ったこと。

  • リーダーシップの発揮には必ずしも権威は必要では無い事。権威を振るうことがリーダーシップでは無い。
  • リーダーシップを発揮して何かを変えるとき、人々が何を失って、何を得て、何を失わないかを理解し、はっきり示す。失うことの背景、歴史、感情に敬意を示す。
  • 変化のスピードは、ゆっくりでなければならない。大きな変革であれば数世代かかるかもしれない。しかし、戦略の再考や判断のスピードは速くなければならない。
  • リーダーシップとはカリスマ性で人を導くことではなく、小さなリーダーを増やしていくこと。
  • リーダーシップを発揮し続けるには、協力者と相談者が必要である。近いところ、小さなところから味方を増やしていくこと。自分の精神を癒やすところが必ず必要である。
  • 変革を提唱するときは、必ず抵抗や批判に遭う。行動に対する批難や拒絶を、自分個人に対するものだと思わない。
  • 目標の全ては実現できない。実現できたことの全ては必ずしも数値化できないこと。実現できたことに目を向け、自分を評価する。最後にお迎えが来たとき、「あなたが救ったのは24人で、36人ではなかった」と批難される事はない。

この講義は、もっと「世界をよくするためのリーダーを育成する」という目的で、ネパールの女性人権活動家や南スーダンの活動家などが参加しているものでした。ですから、うちのような中小企業でのリーダーシップの発揮とはスケールの異なるものでしたが、それでも経営者としてのリーダーシップの発揮の仕方として勉強になる面がありました。

おそらくですが、中小企業の経営者が身につけるべきリーダーシップとは、

  • 社長としての権力で皆を従わせるのではなく、個々の自主的なリーダーシップを引き出すリーダーとならなければならない。まだ日本には「会社は社員のもの」という考えの会社も多いはず。それぞれが会社のために動ける環境を作っていく事が大事。
  • 問題点を把握して、現体制の残すべき部分と変えていく部分をはっきりさせ、変化を急がないこと。ただし、戦略は状況に合わせて柔軟かつ迅速に変えていくべし。
  • リーダーシップを発揮し続けるには、協力者と相談者が必要である。この場合、社員や、家族・友人との関係を大事にし、社員と目標を共有できるようにすること。

うーん、なかなか難しいですが、当たり前と言えば当たり前の事もありますね。権威やカリスマはリーダーシップとは別。これは大事。


友人が、引っ越し一括見積りサイトが単なる個人情報転送サイトだった話を読んで、twitter のタイムラインに載せてました。
利用者の方の立場で読むと、大変だったことが伝わってきますが、ここはいつもとは逆に、みなさんが経営者の側に立ってみてください。

経営者に転職して、一番困難に思ったのは「見積もり」です。ちょっとした仕事ならば、仕事そのものよりも見積もりの作成にかかる時間の方が長かったりします。しかも、実際にやってみるわけではないので、本番では必要な重要項目が抜けているかもしれません。大きな穴があれば赤字になります。見積もった後で「やっぱりこれなかったことに」は出来ません。見積もりはリスクが高いのです。以前、第一線で活躍されている方々と見積もり勉強会に参加しました。引っ越しの案件ではありませんでしたが、同じ条件にもかかわらず、見積金額にはグループ間で最大で倍近い差が出ました。しかも、社長・部長クラスの方々が2時間議論した結果です。勉強会じゃなければ、この見積の作成コストは5~10万円といったところでしょう。引っ越しの場合はここまでかからないでしょうが、それでも、見積もりは、リスクもコストも高い作業なのです。

引っ越しだけでなく、自動車保険などでも、1つのフォームに入力すると複数から見積もりがとれるというサービスは多く見かけます。私から見ると、自動車保険ならともかく、見積もりコストのかかる引っ越しにおいて、こんなサービスからまともに機能するとはあまり考えられません。自動車保険であれば、事故歴と等級、年齢と免許証ぐらいである程度自動的に計算できるのでしょうが、引っ越しについては、最低限の相場的な数字は自動計算できると思いますが、実際にかかる費用の見積もりは、それなりに状況を聞きながら、あるいは訪問して状況を把握してから、経験を持った人が手で作るしかないはずです。

しかも、この場合は「一括見積もり請求」サイトからの依頼だと分かっています。要するに複数社の「相見積もり」な訳です。相当な数の競合他社が同じ見積もりを出すことがわかっています。ですから、あまり高い金額を提示しても興味を持ってもらえるわけがないので、高い金額はかけませんが、自社に決めてもらえる可能性は少ないので、あまり見積もりに時間(コスト)を割くわけにも行きません。ですから、必然的に、「適当だがそれほど高くない数字」が出てくることになります。むしろ、この方の場合、「キャンペーンで7000円」のような格安業者が見つかっているという点は、一括見積もりが生きた瞬間だと思います。しかし、結局これを蹴ってしまっています。

このお話で一番失敗だと感じるのは、「メールでやりとりしたい」という条件を出したことだと思います。そもそも、引っ越しの見積もりは「行って見なければ分からない」ぐらい難しい部類に入ると思います。あなたが引っ越し業者なら、フォームとメールで見積もりできますか? しかもメールで何往復もやりとりするのはとても大きなコストがかかります。訪問見積もりも受けたくない、メールでやりとりしたい。最初からこれでは、見積もりだけでなく実際の引っ越しも面倒な事になりそうな雰囲気がします。十分な仕事が入っている会社(つまり、比較的人気の会社)は、「面倒なのでパス」になりそうな予感もします。

先ほどのページの方は、「メールで…」と書いたにもかかわらず、ガンガン電話がかかってきたとの事でした。経営者として、この見積もりサイトに参加する理由は、ただ一つ、集客です。最初から正しい見積もりを出そうなどとは思っていないのです。というか、上に書いたように、最初から正しい見積もりなんて出せないのです。ですから、仕事を取りに行こうとしている会社は「メールで…」などそもそも読んでいない可能性もあります。同じ電話をするなら、先に電話した方が勝ちですから。現に、この方も結局電話してきた業者から決められたようですので、引っ越し業者側から見れば、それでも正しい営業をした、と言えると思います。

また、見積もりコストが回収できるのは、契約が成立したときだけで、自社に決まらなかった場合は丸損になります。こういった回収不可能なコストは、 他のお客様から回収するしかありません。具体的には、他の引っ越し代金に少しずつ上乗せして回収するしかありません。ここからは経営方針次第なのですが、 お客様商売の場合、同じクラスのお客様から回収するのが定石と言えると思います。つまり、一括見積もりで生じる未回収コストは、一括見積もりからのお客さんから回収するということです。逆に、いつも使って頂けるお得意様の料金に、この未回収コストを載せることはないはずです。

あくまで一般論ですが、相見積もりだと分かると、見積額に一定額上乗せすることは、引っ越し業者に限らず多くあります。理由は主に2つで、1つは成約しない可能性があるのであまり時間をかけられないから、念のため金額に余裕を持たせておく事、もう一つは先ほど書いた、未成約に終わった他の見積もりコストを回収するためです。1つ目の「余裕」は、実際に安く済んだ場合には次の時に値引けば良いだけです。先のページのコメントに「2回めの引っ越しのとき、何も考えず最初の引っ越しで丁寧に相応の値段で対応してもらったところにお願いした。2回目だと安くしてもらえた」は、このパターンだと思います。

利用者の立場で見ると、複数社からの見積もりの中から選択できるのは魅力的に感じると思います。ですが、経営者の立場で見ると、相見積もりは、かえって無駄なコストが生じる非情な手法です。どうせなら「本当に困っているんです、いくらまでなら出せますので、予算内で何とかなりませんか?」と頼まれた方が検討の余地があります。まだまだ日本の経営者さんは「困っているなら力になりたい」と思う人がいます。そういった「気持ち」の部分をすっ飛ばして、フォームで一括送信して「見積もれ」といわれても、それなりのものしか来ないのは当然ではないでしょうか。

この方は結果として良い業者に当たったようで良かったと思います。「相見積を覚悟で仕事を取りに行く以上、無理してでも安い価格を提示ないと意味がない」という宿命から、現場である程度価格が上がるのは織り込み済みともいえます。余裕を持たせた高めの金額を最初から提示していたら、「価格とサービスのバランスが良さそうなところに絞る。」に入れなかったかもしれませんから。