閲覧者にマイニングさせたからといって、それだけでは悪質だとは言えないのではないか」と言いましたが、確かに、これを放置したのでは、そのうち悪質なものが出てくることは目に見えています。

広告でも、あたかもシステムがウイルスに感染しているかのような警告文を表示させ、対策ソフトと称して不正なプログラムをダウンロードさせる広告が溢れています。閲覧者マイニングモデルも、同様の危険性を備えています。

一番ホットな話題で言うと、「漫画村」をはじめとする不法配信サイトのほか、いわゆる「ステルスマーケティング」や、デマを拡散する悪質なまとめサイトなどに対し、最近、広告主を動かすことによって広告収入を激減させる攻撃、いわゆる「広告剥がし」が行われています。良質な広告主が無ければ収益は大きく下がりますので、スポンサーリテラシが急速に求められ始めてた近年では、一定の効果のある対策です。ただし、この「広告剥がし」も、広告の流通が数社に事実上独占されている状態では、インターネットでの情報発信の可能性を限られた会社の判断で潰してしまえるという事でもあるので、それはそれで別の危険をはらんでいます。

今回の「閲覧者マイニングモデル」は、利用者が長時間滞在する「漫画村」のようなサイトの新しい収益減としてマッチしてしまいます。もちろん、これも、マイニングが悪いのではなく、海賊版を不法公開しているのが悪いのですが、なかなかに難しい問題です。

また、合法的なマイニングにしても、どの程度までリソースの使用を許すか、という線引きが必要です。スマホのCPUを目一杯使われると、当然バッテリーをものすごい勢いで消費しますし、放熱の悪いモデルでは、過熱によりカメラなど一部の機能がしばらく使えなくなります。これはさすがに迷惑ですよね。広告も同じぐらい迷惑だという人も居ますが、広告モデルはその歴史の長さもあり、あまりに常識を逸脱した広告はごく一部です。このページも、Google広告のテストの一環でちょっと多めの広告が入っていまして(どの程度広告を表示させるかはGoogleのさじ加減ですが)、申し訳ないことに、読み込み時に余分な通信とCPUを食いますが、読み込んでしまってからはCPUはほとんど動きません。(Google広告には、悪質な広告が少ないので)

もちろん、どうしても気に入らない場合は、そのサイトに行かなければ良いのですが、マイニング利用が明示されてなければ、どのサイトに行かなければ良いのかも分かりません。その意味でも、「利用者マイニングは全てが違法ではないが、適正な範囲内で行い、その事を明示する必要がある」あたりで線引きしなければならない気がします。この「適正な範囲内」というのが曖昧なままですが、これがはっきりするのは、この技術が一般化して「この辺が落としどころだよね」という世間との暗黙の合意が形成される時です。つまり、今の時点で「明らかにやり過ぎ」た場合を除けば、グレーゾーンのどこに基準ができるかはまだわからないのです。

最近は、EUを中心に、広告の最適化に対しても、ユーザの合意を得るように法令が変わっています。「事前の合意」と「選択肢の提示」は、これからの開発者に求められるのかな、と思います。しかし、ここで注意して欲しいのは、EUの動きは、(主に米国の)大企業による情報のコントロールから(欧州の)個人を守るためであって、国家の権力を国民に行使するためではありません。EUのプライバシー法では、一回目は必ず警告を行い、それでも改善しない場合に罰則を科すという規定になっており、摘発よりも予防を促していることが覗えます。今回の騒動とは「国家と法律の役割」の向きが完全に違います。

また、一般にブログを書いて広告を載せているようなサイト全てが、「広告最適化のためにクッキーを利用して良いですか? 広告を表示せず、マイニングの資源を提供してくれますか? それとも少額の寄付をお願いできますか?」と尋ねる仕組みを導入するのは大変ですし、初めて行くサイトでイチイチ同じ質問をされるのも、迷惑広告と同じぐらい迷惑ですよね。もっと包括的で効率的な解決技術が必要となってきているように思います。


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