EUの新しいプライバシー法制が制定されるなど、Webにおけるプライバシー情報の扱いに厳しい目が向けられています。ユーザの観点からすれば、確かに、自分の情報が知らないところで収集され、どこかで利用されるのは気持ち悪いことです。

サービス提供者による情報収集は、主にサービス品質の向上のために使われます。ユーザの情報を集めることで、コンビニでは同時に売れる商品を並べておきますし、地域によっておでんの供給時期に差を付けたりしてサービスを向上させます。もちろん、その結果として利益の向上を見込んでいますが、ユーザの利便性を追求した結果の利益ですので、これを否定する方は少ないと思います。

今、特に懸念されているのが、サードパーティ(第三者)による情報収集です。特に広告業者による情報収集によって、どこかのショッピングサイトで見た商品が、全然関係のないサイトに広告で表示されたりします。そんなとき、そのサイトに「なんでお前が、この事を知っているんだ!」と思うかもしれません。しかし、そのサイトは、閲覧者が探している商品情報など知らないのです。これは、広告業者がショッピングサイトで収集したデータを元に、広告業者が閲覧者に最適化した広告を表示しているのです。

この情報収集には様々な方法がありますが、もっともシンプルな方法に対しては簡単な「収集阻止」の方法があります。

しかし、これが果たしてどこまでユーザのためになるか、かなり疑問です。というのも、広告の最適化を防いだとしても、広告自体が表示されなくなるわけではありません。全く興味の無い広告を見せられるよりも、まだ、多少なりとも興味のある広告の方がずっとマシなんです。愛用の化粧品の新製品情報を見せられるより、全く興味の無い健康食品の広告を延々と表示される方がウザいです。

また、現在広告業界を席巻している Google, Apple, Microsoft, Facebook といった大企業に対して、情報収集を本当に拒否することができるでしょうか。OSを握っている企業は、その気になればどんな操作情報も収集できます。SNS では、あなたのことを知っている誰かが情報を提供すれば、あなたの情報は間接的に収集されます。これは実店舗でも同じで、カード会社はあなたの買い物傾向を全て把握していますし、各種ポイントカードは、ポイントと引き替えに加盟店全店で買い物傾向を収集し、相互にシェアしています。隣町の店に行って現金で支払いをしても、そこまでにどれだけの防犯カメラに写っているでしょうか。もはや、匿名の購買情報は秘密情報ではないのです。

今や、匿名・暗号化(符号化)された購買情報は、もはや収集を防ぐ方が困難になっていて、むしろ、これを積極活用しなければ、高度なサービスの提供は難しくなります。コンビニに欲しいものが並ばず、流行色のファッションはすぐに品切れになり、サービスエリアの自販機は肝心なときに品切れになる、単に不便な社会になってしまいます。思い返せば、二昔前ぐらいは、暑い日の自販機は「つめた~い飲み物」は軒並み品切れになっていました。以前はそれを人海戦術で補充していたのですが、いまはそんな無茶は配送はできません。顧客動向や気象情報などの「ビッグデータ」を活用して、便利なサービスを維持しているのです。匿名情報に過剰に敏感になりすぎないほうが良いように思います。もとより、購買情報は、長屋を廻っている行商さんの時代から、もっと個人を特定して利用されていました。

もちろん、これが現代において、匿名ではい情報がネットに広く出回っては困ります。つまり、「○○さんは昨日□□で△△を買った」という情報が公になるようなことがあってはなりません。こうした本当のプライバシー情報は、むやみに共有されたり漏洩するようなことがあっては困ります。システムを設計する私たち側にできる事は、とにかくセンシティブなデータは集めないことに尽きると思います。弊社が運営する価格広場でも、ログインを必要とするような個人情報は最初から収集していません。収集しなければ不注意から漏洩することも悪用されることもありませんから。その代償として、高度な個人最適化はできません。個人最適化が必要なサービスでも、不必要な情報は極力集めない、匿名情報とは切り分けで管理するといった設計が重要です。


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